15歳の時、母子家庭でたった一人の母親を失い、以降、祖父母の家で生活をしていた美知子さんは高校卒業と同時に繊維工場へ就職し、工場近くの寮に転居した。

もともと人見知りで物静かな性格で学生時代から表立ったトラブルは全くなかった。

就職してから1年半が経過した先日、会社から祖父の自宅へ無断欠勤して寮にも帰っていないとの連絡が入った。

祖父母は大慌て。ただ、孫娘の最近の生活状況など全く知る由もなく、探す当てもない。

警察へ捜索願を提出するも、積極的に探すというよりは何かあった場合に照合してみる程度で探してくれることはなさそうだった。

祖父母としては、唯一、知る学生時代の友人(数名だが)に連絡をしてみたが、卒業以来殆ど付き合いがないという。

また、勤務先からは月内に連絡が無いようなら、申し訳ないけれども退職して貰うほかありません。心配というよりは迷惑がっているような様子。

人が失踪すると残された者は様々な対応を迫られ、その殆どが本人の意思次第で判断できない事ばかりで、失踪した者を思えば思う程、ストレスが溜まる時間を過ごすことになる。

そんな中、渚探偵事務所へ娘の人探しの依頼を頂いた。

調査はまず、失踪する当時に住んでいた寮を拝見させて頂くことからはじまった。

依頼人の言う通り、高校卒業以降、学生時代の友人との付き合いは殆どなく、勤務先の一部の同年代女子とのみ交友があったようである。

そこまでに至る経緯は省略するが、調査開始から5日目で失踪の全容は見えてきた。

同僚の女友達とつるみはじめ、今年の5月頃から都内の繁華街へ出歩くようになった。

化粧気もなく地味だった彼女が化粧や服装にも変化少しづつ現れていたという。

変わっていく彼女はその内、同僚の子とも遊びに出かける事が少なくなり、もっぱら同僚の友達達と遊ぶ日々。

彼女たちの中にはキャバクラで働く子や風俗で働く子などもいるようなグループ。一部の子はホストクラブにも出入りしており、彼女も何度か誘われて次第にホストクラブへの出入りが多くなった。

当然、金銭面が追いつく訳もなく、支払えずツケという形で担当するホストが持つ事に、、、。

ホストクラブ、彼女の担当するホストを特定できたのはそれから数日後。

以降、ホストクラブでの張り込みがはじまった。

余談だが、ホストクラブの営業時間がいわゆるキャバクラとも異なり、深夜から最後の客が出ていくのが朝8、9時頃である。

数日後、深夜にホスト2名と共に若い女が店の中へ。

手荒な事は一切していないのだが、雰囲気が来店客と違い、どこか連れ込まれているような印象だ。

預かっていた失踪前の写真とは雰囲気がかなり異なるが、彼女だと調査員は確信した。

踏み込むか?迷ったが、既に店は繁忙時間帯に入っている。彼女がどういう形で出てくるか、彼女の状況を見てから次の展開を判断しよう。

翌朝10時に彼女はホスト3名と共に出てきたが、明らかに遊んでいる雰囲気ではない。

人目につかない喫茶店に入店したところで接触、彼女を奪還しとりあえず、依頼人のもとへ送ることにした。

ホストは売掛110万を払わない事を理由に彼女を追い込み、友人女性の勤めるキャバクラで働くように強要していた。

彼女は言われるがまま、この20日程はその店で働き友人女性の家に居候していたという。

後日

ホストには売掛残として明細を出させた上、約半額の50万を支払い、以後一切の関わりを持たない事を約束させホスト側との話は収束させた。

彼女は頑なに会社には戻りたくないと言い張り、僅か2年弱で退職する事となり、祖父母の家に戻った。